タスク管理の本番は、二度挫折してから

倉下 忠憲 — №1 倉園 佳三

タスク管理を身につけて、仕事を効率化させたい。そう思ってチャレンジしてみたけれども、なかなかうまくいかない。それで落ち込んでしまい、嫌になった人もいるかもしれません。でも、実はそこからが本番なのです。

GTDとの出会い

ライフハックという言葉がネット記事を賑わすようになったころ、「GTD」というフレーズと出会いました。まるで好物の骨を見つけた犬のように私は関連記事を読みあさり、日々GTDについて詳しくなっていきました。 「頭の中にある気になることをすべて書き出しなさい」 どこの情報源でも、スタートとして紹介される工程です。ストレスフリーで仕事に臨むためには、頭の中を空っぽにして、まるで水ような心境を得る必要があるのです。さっそくチャレンジしてみました。早朝のカフェに出かけ、お気に入りのノートを広げて、そこに手が痛くなるぐらいまで「気になること」を書き付けていきます。 脳を絞るような作業が終わってみると、ずいぶん気分がすっきりしていることに気がつきました。これが水のような心境なのか、と驚き、そうして書き出した「気になること」をどんどんリストへと放り込んでいきました。 結局、その水はすぐに濁ってしまったわけですが。

適切なリストの遠さ

一度目の挫折のポイントは明らかでした。それは「気になること」が多すぎたことです。いや、「やろうとしていること」が多すぎたと言った方がよいでしょう。具体的には、リストの作り方を間違えていたのです。本来なら「いつかやる」リストに入れるべきことを、「次の行動」として管理していました。これではうまくいくはずがありません。 どれだけタスクをうまく管理しても、手が四本になったりはしませんし、目が後ろに付いたりもしません。タスク管理は「できること」をうまくできるようにはしてくれますが、「できること」の数を飛躍的にアップさせてはくれないのです。時間は有限であり、人間は完全ではありません。 ただ、タスク管理を始めたばかりのころは、妙な万能感のせいで、それらができるような気持ちになってしまいます。その高い理想と残念な現実とのギャップのせいで、徐々にリストを参照しなくなってきました。「適切なリスト」が作れていなかったため、リストに対する不信感が芽生えてきたのです。ストレスフリーは手の届かない場所へと帰っていきました。

自分にフィットするリスト作り

そのしばらく後、それまで登録していたタスクを全て削除し、コンテキストも消し去った上で、新しくタスク管理を始めることにしました。このままではダメだと一念発起したのです。 二回目のチャレンジでは、慎重にリストを作りました。最初は、思いつく限りのコンテキストを設定していましたが、意味がないことに気がついてそれも止めました。たとえば「@電話」というのは、私の仕事では必要ありません。かかっても来なければ、かけることもほとんどないからです。逆に「@パソコン」というのは、おおざっぱ過ぎる区切りであることもわかりました。日中ずっとパソコンを触っているからです。 自分の環境を踏まえて「適切なリスト」を作り、そこにタスクを入れていきました。結果、まるで水泳選手の水着のようにすっきりしたリストができました。自分に必要なものは、そこにある。という不思議な感覚を伴ったリストです。しかし、その感覚もやがて失われていきました。

腑に落ちたレビューの意義

二回目の挫折の原因は、レビュー不足でした。 スタート時に気になることを全て書き出して、それを登録する。あとは、日常に発生するタスクをその場その場で登録していく。そういうやり方を続けていました。当初それはうまくいったのです。すごくうまくいっていたと言ってもよいでしょう。しかし、時間が経つにつれ、少しずつ違和感が出てきます。10年ぶりに再会した同級生と何を喋っていいのかわからない、という違和感に似ているかもしれません。 これ以上はやらないと決めたことが、やることリストに入っていたり、あるいは違うリストに同じタスクが登録されていたりと、リストの整合性が損なわれていたのです。無計画に増改築をくり返した家屋と同じですね。 私は二回目の挫折で、「適切なリスト」を作るだけでなく「リストを適切に保つ」行為も必要なのだ、ということに気がつきました。それを行うのがレビューの役割だったのです。それが実感を伴って腑に落ちました。

最初から完璧は望めない

結局の所、タスク管理を身につけることは、自分の生活に新しい習慣を導入することとイコールです。何か新しいツールをインストールすれば完了するわけではありません。ツールだけでは、システムは作れないのです。私が考えるに、システムはツール・ロール・ルールの3要素が必要です。そこにはあなた自身の認識も関わってきます。 また、タスク管理はその人にフィットしていないと意味がありません。そのためマニュアル式に対応するのも限界があります。「よくわからないなりにやってみる」からスタートし、失敗を経ながら、何が機能するのか、何が機能しないのかを自分で発見していくしかありません。私が「適切なリスト」を理解できたのも、適切でないリストを体験したからです。 もちろん、失敗するだけでうまくいくわけではありません。諦めないでチャレンジを続ける必要もありますし、それぞれの行為の中で、

「何がうまくいかないのか」「それを変えるためには何をすればいいのか」

を考える必要もあります。

そういう視点に立つと、タスク管理に挫折するのも、悪い体験ではなくなります。より良いシステムを作るための材料が増えたわけですから。もし、タスク管理に何度か失敗しているなら、なおのこと再チャレンジするべきです。その経験を踏まえれば、これまでよりも適切な形でタスク管理システムが構築できるでしょう。

写真: Flickr / Official U.S. Air Force CC BY-NC 2.0

Rashita

倉下 忠憲

長年コンビニ業界に勤めていたが30歳のころに物書き業に転身。その後はフリーのライターとして書籍執筆やメルマガ運営を行っている。仕事術や知的生産に関する探求が主なテーマ。著書に『Evernote「超」仕事術』『KDPではじめる セルフ・パブリッシング』(共にC&R研究所)、『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』(技術評論社)などがある。

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