倉園佳三さんとのインタビュー
Michael Sliwinski: Zonoさん、今回インタービューに応じてくれてありがとうございます。倉園佳三さんは私の長年の友人であり、GTDや生産性のエキスパートであると同時に、すばらしいプロのミュージシャンでもあります。今日はいくつかのことを一緒に話したいと思います。では、まず近況から伺いたいと思います。Zonoさんはブログを運営し、何冊か本もご出版されました。そのうちの一冊はわたしたちのアプリ、Nozbeについて書かれましたね。それでは、近況ついてお話ください。
倉園 佳三: 去年、おととしくらいまで私はクリエイションをテーマに、ブログや何冊かの本を書いてきました。特にiPhone、iPadやクラウドサービスなどを使って、よりクリエイティブな仕事ができないかというテーマでいろいろ執筆活動をやってきたのですが、昨年から思うところがありまして、そのようなiPhone、iPad、クラウドサービスなどから少し離れたところで、もう少し根本的なところで、私たちがもっと幸せに働くためにはどうしたらいいのか、というようなことを自分で実験をしながら、何がうまくいくのかというようなことを試している最中です。そのような中で、私のテーマである「クリエイション」ということに関して、もともと私はミュージシャンであったのですが、もう一度音楽という場面で、それがどんなふうに使えるか、ということを楽しみながら実験をしている最中です。
今年はこれまでやってきた「クリエイション」「クリエイティブ」な仕事の仕方からもっと突っ込んだところ、大げさに言うと、「私たちは何のために生きて、なぜ仕事をするのだろう。せっかく仕事をするのであれば、よりいい仕事をしたいし、よりいいものを作りたい。そうするためにはどうすればいいのか。」といったことを一冊の本にまとめようかなと考えています。
Michael: 以前出版されたのはこの2冊ですね。こちらはサインをしていただきました。では、次に新しい本についてより詳しくお聞きしましょう。現在構想を練っているということですが、どういった内容になりますか。
倉園 佳三: 新しい本はどのような中身かと申しますと、もともとNozbeの本を書いたときに、GTDやGTDというメソッドをテーマについて書いたのですが、何のためにそういうことをやるのだろうかと突き詰めたときに、いろいろと面白いことが分かって来ました。私たちが持っている最も素晴らしい力は何かと考えたとき、自分がイメージしたことを現実にすることができる、という能力が実は私たち人間が持っている最も素晴らしい能力なのではないだろうか、と考えました。結局のところ仕事というのは、自分のイメージを実現させていく、世の中に無いものを作っていく、ということではないのだろうかと私は解釈しています。しばしば日本では「クリエイション」「クリエイター」と聞くと、アーティスティックな響きを持ち、自分とは関係ないようなイメージで捉えられがちですが、私はあらゆる仕事をする人は「クリエイター」だと考えています。つまり、この世に無いものを生み出している人だという風に考えています。
では、どうやって自分のイメージしているものを現実のものにしていくか、ということが次のテーマになっていきます。多くの場合、偶然できたもの、あるいは、何となく作ったものを自分の仕事や自分のこれまでやってきたこととして捉えているのですが、私はより楽しく、よりいいものを作るためには、自分が何を作りたいのかを最初に明確にイメージするということが大切であると考えています。
つまり、一番最初のステップは、イメージを明確にすること。イメージを明確にするというのは、例えば、東大に入りたいと思ったとします。残念ながらそのイメージを持つだけでは実現はしません。そのためには何かをしなくてはいけない。つまりアクションを起こさなければいけません。では、そのアクションをどうやって起こすのかというと、最高のゴールのイメージを持ったら、次は最高のプロセスのイメージを持つということが、私からの提案です。私が考えるに、GTDやNozbeといったものは何のためにあるのかというと、おそらく、ToDoリストを備忘録のように書いておくのではなく、自分が実現したいと思うイメージを、最高のプロセスで辿って行くとしたらどのような感じになるのだろうというように、プロセスをイメージするためにあるのではないかと考えています。
このように、ゴールをイメージし、次にプロセスをイメージする。先ほどの東大の例で言いますと、夏休みはこのぐらいの量の勉強が必要である、これこれの本を読むことが必要である、どこそこへ行って講義を聴く、OBの話を聞くといったような、いろいろなプロセスを最初に理想の形として思い浮かべる必要があります。残念ながら、それらを全て遂行することはなかなか簡単ではありませんが、仮に自分はイメージしたゴールを実現する人だとするならば、今この瞬間どんな風に立ち振る舞いしているであろうか、ということを常に思い描いて、その通りに動いてみるというのが私のオススメするやり方です。そのような話を入り口として新しい本を書こうかなと考えています。
Michael: ところで、なぜまたあなたの原点である音楽に戻ったのですか。今になってバンドを再開したのですか。どうお考えですか。
倉園 佳三: マイケル、とてもいい質問です。ものを作るに当たって、今2つ大事なことを話しました。理想のゴールをイメージすること、理想のプロセスをイメージすること、の2つです。
ここで、忘れてはならないのが、「バイブレーション」です。例えば、AppleのiPhoneやiPadなどを最初に手に持ったとき、何かを感じます。これはただの電話ではない、ただのデバイスではない。箱を開けた瞬間に、ふわっと、薫るような何かがあります。それは誰もが分かってくれるのではないかと思います。それを私は「バイブレーション」と呼んでいます。作り手の「バイブレーション」、つまり作り手がどんな気持ちでどんな状態でそのプロダクトを設計し開発し作ってきたか。何を作るかということよりも、どういう気持ちで、どういう状態で作るか、ということのほうが非常に重要なのではないかと考えます。例えば、コンビニエンスストアなどで、あまり心のこもっていない形だけの「ありがとうございました」と言われたときの気持ちと、こぢんまりしたよい雰囲気の飲み屋でマスターに「ありがとね!」とぶっきらぼうだけれども気持ちのこもっているありがとうを言われたときの気持ちを比べたとき、どちらが気持ちがいいかということを私たちは見分ける力を持っています。それはつまり、「バイブレーション」を感じる力を持っているということです。
音楽をやる上で、どういう状態、どういうバイブレーションで音楽に関わっているのか、ということが非常に重要であることが分かってきました。若い頃はそれでお金を稼ごうとか、それで売れようとか、人気者になろうといった下心ばかりがあったのですが、今は最高のバイブレーションで音楽を作ったらどうなるのだろうか、ということを試してみたいという気持ちでやっています。実際それで1年以上経ったのですが、昔と全く違うバイブレーションを持ってやると、当時は20代で今はもう51になりましたが、この歳になっても昔よりもいい演奏ができる!ということが分かってきました。先ほどのクリエーションの話とずっと繋がっています。ここまで話してきたようなロジックを、実際に自分のバンドでやってみて、本当にうまくいくのかを試しているところです。
Michael: 思うに、今とても楽しく充実しているでしょうね。これからのプランを教えてください。バンドは新しいアルバムを出すのですか。将来のプランはなんでしょうか。
倉園 佳三: 正直なところ、ノープランなんです。先ほどゴールとプロセスを明確にしろ、という話をしましたが、現在私のゴールは、いい音楽を作るというものだけです。いい曲を作っていい演奏をする。実はそこにしか理想のゴールを持っていません。理想のプロセスは、そのために最善の努力(とあえて言いますが)や力を注ぎ込むということにあります。音楽をどこでどう売ろう、といったことやバンドの名声などは一切考えていません。なぜかといいますと、それをやってしまうと音楽が手段になってしまうのです。私は音楽そのものを目的としてやっていきたいのです。
これも先ほどのプロセスと関係のある話なのですが、例えば、Nozbeでプロジェクトを作ると、ToDoリストが並びます。アクションはプロジェクトのための手段になっています。手段になってしまうと、一つ一つのアクションが面白くなくなってしまいます。そうなると、いいバイブレーションが生まれないのです。そこで私はそのやり方をまるっきり変え、プロジェクトの中にあるToDoタスク自体を目的にする、というやり方を模索し実践しています。例ですが、電話番号を探すのに電話帳をめくる。電話帳をめくるのは電話番号を見つけるためなので、これは手段になるのですが、では電話帳をめくるというのを目的にしたらどうか、というようなことをやっています。一枚一枚丁寧に電話帳をめくったときに、これまで単にざざざ、とめくっていただけの電話帳が、もしかしたら何か別の意味を持つのではないか。そういう一瞬一瞬のアクションを手段にせず、目的にするというようなことを、音楽を通してチャレンジしているところです。
Michael: Zonoさん、ありがとうございました。これからも頑張ってください。私もYoutubeでバンドの演奏をチェックします。何回も見ましたが、ホントにいいですね!いつか生演奏を聴きに行きたいです。次回日本へ行った際には必ずコンサートへ行きます。